第12回 電撃大賞 入賞作品

銀賞
「火目の巫女」
作/杉井光 (東京都)


受賞作品
「火目の巫女」 (電撃文庫)

“化生” を討つ巫女の戦いを描く、和風ファンタジー!

その国は、“化生” と呼ばれる異形の怪物に脅かされていた。
化生に対抗できるのは、火渡という弓を預かるただひとりの “火目” だけ。
火目を目指すものたちが集う、宮中の火垂宛──。
そこには “御明かし” と呼ばれる三人の火目候補、化生に村を焼かれた伊月、どこか謎めいた盲目の佳乃、無邪気で才能溢れる常和がいた。
化生との遭遇と戦い、火垂宛からの脱走。
三人はさまざまな苦難を経験し、時に諍い、時に助け合いながら絆を深めていく……。





選考委員選評
安田均
平安朝めいた時代に、化生と呼ばれるバケモノを抑える役に就いた少女の物語。キャラクター間の文章や背景の雰囲気は見事に描かれていて、問題はまったくない。ただ、あまりにも前半が丁寧に描かれ、やや読んでいて間延びがした。一方、後半の展開はおもしろいけれども、今度は性急にすぎる。バランスのとれた構成が課題だろう。

深沢美潮
旅先でこの作品を読みました。切れ切れに読んだというのに、いったん文字に目を落とすと、すぐその世界に入れるんです。これはすごい。凜とした朝の空気や松明の火の粉、化け物に右往左往する人々など、映像のように浮かんできました。ただ、後半からの畳みかけが、畳みかけではなく「広げた風呂敷を大あわてで畳んでいる」ような印象を持ちました。ストーリーも説得力がない。でも、これだけの力がある人なら、きっとすごい作品に仕上げてくれることでしょう。

高畑京一郎
とにかく、弓射に関する一連の描写が見事。日々の訓練の様子にもリアリティがあるし、火目候補生達の弓射の凄まじさは、ビジュアル的にも感覚的にも圧巻。文体は基本的には重厚なのだが、女の子の台詞だけ現代語調になるので、違和感を覚える。また、作者の都合で登場人物を操作しているのが透けて見えてしまう場面が、いくつかあった。最後の落ちに関しては、犠牲が多過ぎただけに、どこか釈然としないものが残る。

佐藤辰男(小社代表取締役会長)
化け物に母を食われた少女が、復讐のために、一心不乱に弓の訓練を積む。その一途で内気な少女の成長物語だとおもえば随所に優れた描写があり、少女の心のひだに分け入った分析もあって、楽しめる。弓の対決に敗れたり、化生退治に失敗して自分の非力を知るといった描写がむしろうまい。それだけに、化生とそれに対峙する組織の理屈や、最後のあまりに急なおどろおどろしい展開などがあまりに作り物めいて見えてくるのが残念。

鈴木一智(電撃文庫編集長)
古代の日本のような世界観は最近の応募作としては珍しいものではありませんが、怪物との闘い、火目候補たちの友情と謀略、火目の血と世界に秘められた謎等々、様々な要素を織り込む事で奥行きのある物語となっています。手堅い文章で丁寧にシーンを描写する姿勢にも好感が持てます。その書き込みが終盤まで持続しなかった事が惜しまれますが、哀しくも透明感のある不思議な読後感が残った作品でした。

プロフィール
1978年東京生まれ。高校卒業後、アマチュアバンドでキーボードを弾いたりしながらコンビニや雀荘のアルバイトを転々としたあげく、三年前、勤め先の雀荘が潰れたために無職に。以降、ニート生活を満喫しながら雑文を書いている。趣味は、深夜に牛丼店の前まで行ってなにも食べずに戻ってくること。お金がないから。数億円を投入した政府の対策に真っ向から刃向かって専業ニート作家を目指す。

あらすじ
 化生と呼ばれる怪物たちに脅かされている国があった。人は化生を押さえ込む火護衆と、化生を討つ弓を授かる「火目」の存在により彼らに対抗していた。
 幼い少女伊月も化生に喰われんとしていたが、駆けつけた火護衆と火目の放つ鳴箭により救われる。村を焼かれた伊月は化生を憎み、火目を目指す決意をする。
 七年後。都の宮中にある火目の養成施設、火垂苑で、盲目の少女・佳乃、新しくやってきた幼い常和とともに伊月は弓の訓練を積んでいた。ときに失敗したり自信をなくしたりしながらも、伊月は周囲の力添えを受けながら自分のやり方を見つけていく。
 折りしも世には化生が跋扈し、当代の火目の衰えが囁かれる。そして伊月は自分たち御明かしと化生との奇妙な共通点を見出すが――。
 古代の日本を思わせる世界を舞台に、少女の戦いと成長を鮮やかな筆致で描く和風ファンタジーの意欲作。



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