第12回 電撃大賞 入賞作品

金賞
「哀しみキメラ」
作/来楽零 (千葉県)


受賞作品
「哀しみキメラ」 (電撃文庫)

人間を喰う異形のモノに遭遇した4人の男女。 彼らの生きる道は!?

ある日、塾の教室へ急いでいた矢代純は、エレベーターに閉じ込められた。
乗り合わせた3人の男女―― 十文字誠、水藤深矢、早瀬綾佳とともに助けを待っていると、天井をやぶって現れた異形のものに襲われる。
怪我もなく帰宅するが、不思議な体験をして以来、純たちの体に変化が起こり始め……。
傷つかない体、突然回復した視力、幽霊が見える目、そして、いくら食べても満たされない飢え――
戸惑う純たちの前に、モノ祓い師であるという七倉和巳が現れた……。





選考委員選評
安田均
大賞並みの迫力で読ませる作品。出だしのホラータッチが生々しく、それからモノ祓い師の登場となり、ややありがちな展開かと思いきや、変貌した主人公たち4人それぞれの生きざまへと、ストーリーが移行していく。この予想外の構成には、当初ややとまどったものの、キャラクターたちの描写が綿密で、ぐいぐい読ませていく筆力は群を抜いている。いろんな作品が書ける人だと思う。これからにも期待大。

深沢美潮
のっけから、その世界にすぐ入れるところあたり、すごい! と思いました。ぐいぐいと引きつける力もあり、読んでいて、どうなっちゃうのかな? と、予測がつかない面白さがあります。ただし、主要キャラクターで書けていない人たちがいて、それがとても残念でした。日常がリアルに感じられて初めて活きてくる作品だと思うので、一考を願います。なかなか難しいテーマで、ストーリーもどう集結していくのかと思っていましたが、不思議と読後感のよい作品です。

高畑京一郎
ストーリーの構造は、かつての『少年ドラマシリーズ』を想起させ、ある意味で王道と言える。だが、そこからの展開が凄まじく、読む者を驚かせ、また惹き付ける。主人公達を待ち受ける運命は過酷だが、彼らが精神的に逞しく、迷いはあっても常に前向きなので、素直に応援したくなる。所々に描写不足な点はあるが、ストーリーの密度は非常に高い。終盤がやや駆け足気味になってしまっている点だけは、惜しかった。

佐藤辰男(小社代表取締役会長)
願わくば、最後までホラーで押し通してほしかった。エレベーターでの少年たちの出会いに始まり、からだに変化が現れ、やがて自分が化け物になってしまったことを自覚するあたりまでは異様な迫力があって楽しめた。ただ彼らが引き受けた過酷な運命の源泉である、モノやモノ祓い師の表現がそこだけありきたりで、時代錯誤、リアリティがないものだから、全体として中途半端な印象が残ったのは残念だった。主人公が人間的に熱いものだから、自分が自分でなくなるようなホラー的怖さも希薄だった。

鈴木一智(電撃文庫編集長)
通常この手の設定は超人バトルになりがちですが、人外の力を持ってしまった主人公達の葛藤がメインとなっており、各々のバックボーンが絡む事により読み応えのある人間ドラマとなっています。重たい作風にも拘わらず読後感が悪くないのは、この作者が読者を共感させる筆力を持っているからだと思います。女性としてこのテイストの作品を書ける才能は希有なのではないでしょうか。

プロフィール
1983年5月6日生まれ。幼少の頃から空想癖があり、よく魂だけを向こうの世界に飛ばしていた模様。趣味はB5の紙を縦二つ折りにしてそれを手に持ったままぼんやりすることです。小説の構想の多くが、この行為の中から生まれます。なぜB5縦二つ折りの紙が必要なのか自分でも不明です。苦手は、人の顔を覚えること。好きな俳優でも、違う衣装とヘアースタイルで別の映画に出られると、もうわかりません。なんでだろうと少し悲しいです。

あらすじ
 エレベーターが止まった。
 閉じこめられてしまった矢代純は、乗り合わせた三人の男女、十文字誠、水藤深矢、早瀬綾佳と共に、狭い箱の中で異形のものに襲われる。その不可思議な体験以来、純たちの体に変化が起こり始めた。傷つかない体、突然回復した視力、幽霊が見える目、そして、いくら食べても満たされない飢え――。戸惑う純たちの前に、ある日、モノ祓い師であるという七倉和巳が現れた。純たちがエレベーターの中で遭遇した異形のものは、人間を喰って生きる〈モノ〉であり、純たち四人の体は今、その〈モノ〉と融合してしまっているのだと七倉は言う。魂を喰らわねば生きていけなくなってしまった四人は、〈モノ〉を喰って生きるために、七倉のもとでモノ祓い師になった。
 〈モノ〉を喰い続けることで、四人は強くなり、次第に人間離れしていく。モノ祓い師一族の本家は、力を持ちすぎた純たち四人を危険視し始めていた。そんなとき、水藤の妹がある男に騙され犯される事件が起きる。水藤は怒りと飢えから、その男を喰ってしまう。一般人が喰われたことで、本家はただちに水藤の処刑を決めた。そしてこれを機に、他の三人も殺してしまおうとする。七倉は、せめて処分は水藤一人にとどめるように願い、本家は三人に水藤を殺させることを条件として、彼の意見を受けいれた。人間の側にいたくて、七倉の条件をのむ純。たとえ他の人間を喰ってでも、水藤を守り、四人で生きていくことを望む十文字。どちらの決心も出来ずに姿を消した綾佳。彼らの思いはすれ違い、敵対するしかない状況に追い込まれていく。
 そんな中、行方をくらませていた綾佳は、一人京都に向かっていた。その地に封じ込められている巨大な〈モノ〉を解き放ち、本家が自分たちの力を必要とせざるを得ないようにし向けるために。もう一度四人でやりなおす道を切り開くために――。



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