第12回 電撃大賞 入賞作品

大賞
「お留守バンシー」
作/小河正岳 (東京都)


受賞作品
「お留守バンシー」 (電撃文庫)

どこか普通とズレているファンタスティックコメディ!

ガス灯が夜の街を照らし、馬車が蹄鉄を響かせて街角を駆けていた19世紀。 科学が迷信を駆逐しつつあったこの時代、かつては人々に恐れられた 「闇の眷属」 も聖域にこもり、慎ましくも平穏な生活を送っていた――。

東欧の片田舎にある 「オルレーユ城」 はそんな聖域のひとつ。
ところが、ついに闇を清めようとする人間の標的になってしまった。
領主・ブラド卿は追っ手から逃れるため、妖精の少女・バンシーに留守番を頼んで城を離れることに……。





選考委員選評
安田均
ファンタジーのモンスターたちを用いて、見事なシチュエーション・コメディを組み立てている。一見、よくありそうだが、各モンスターを“微妙にハズした”存在に仕立て、そのやりとりの妙や間の取り方には、すばらしい発想とユーモア/ギャグ感覚がみてとれる。途中、何度もふきださざるを得なかった。構成もしっかりしている。軽くて評価が低くなりがちだが、実際にこのレベルで仕上げるのはむずかしい。そこを買う。

深沢美潮
当初、いわゆる「メイドさん」「萌え系」狙いかなと思いました。でも、そんな眼鏡はどこへやら。本当に楽しかった! センスがいいですね。軽々書いたようで、様々工夫しているのも好感が持てる。アダムスファミリーを彷彿とさせ、日本ではなかなか珍しいシチュエーションコメディに仕上がってます。軽い作品なので、大賞は難しいかもと思っていたのですが、審査員のほとんどが好き! の点で一致していました。わたし? もちろん大好き。続編、絶対読みます。

高畑京一郎
ストレートな、お気楽ライトファンタジー。だが、その裏には緻密な計算がある。キャラ設定やその配置も見事だし、ストーリー的にもきっちりと伏線を機能させている。ユーモアもあれば意外性もあり、万人が楽しめる作品に仕上がっている。最後の落とし方も愉快。強いて欠点を上げるとすれば、そつなくまとまり過ぎているというあたりか。いずれにせよ、デビュー作でこの完成度は、驚異としか言いようがない。

佐藤辰男(小社代表取締役会長)
「ふしだらになれないサキュバス」とか「善政をしく吸血男爵」「ペンギンみたいにかわいいガーゴイル」みたいな、前の形容詞とキャラの属性がまったく矛盾した設定が楽しい。全編、神経の行き届いた良質なコメディに仕上がっている。この手のユーモア小説というのは、どうしてもシリアスで問題意識の高い作品と比べられて賞がとり難いもの。これだけ緻密に積み上げてゆるーく見せる技量はもちろん高く評価されなければならない。

鈴木一智(電撃文庫編集長)
メイド仕事を天職とする妖精バンシー、身持ちの堅いサキュバス、まるでペンギンみたいなガーゴイル、一流庭師のリビングデッド、女好きのデュラハン等、ユニークなキャラたちが繰り広げる愉快なドタバタ。本来はホラー系のキャラをコミカルに仕立てる手法は目新しいものではありませんが、とにかく理屈抜きで楽しめる作風は非常に気に入りました。好みが別れやすいコメディ系を誰もが楽しめるエンタテインメント作品に仕上げたところにこの方の実力を感じます。

プロフィール
西暦でいうところの1975年夏に、東京人の父と大阪人の母との間に生まれたハーフ。東京弁と大阪弁を巧みにあやつるバイリンガル。趣味はピアノ、と言い張ること。まったく弾けません。「うん、まあ、なんとかなるさ」が座右の銘。……が、頑張らねば、いろいろと。

あらすじ
 むかしむかし、といってもそれほどむかしではない、科学が迷信を駆逐しつつあった19世紀中ごろ。独善的な科学がカビ臭い迷信を駆逐しつつあったこの時代では、かつて神の信奉者と対等にわたりあっていた闇の眷属も、わずかに残された自分たちの聖域を維持して、ひっそりと暮らしていました。
 東欧の、とある小国の片田舎。そこの領主が代々居城としてきたオルレーユ城も、実はそんな聖域のひとつ。ブラド卿としっかり者の女の子の<女精>アリアたちは、慎ましくも平穏な生活を送っていたのです。ところが、そんな平穏を破る事件が起きたようで──。
「よいか、アリア。わしはこれから身を隠す。やつがここへくるのだ」
 かつての宿敵、法王庁の<討伐者>ルイラムが、この城を目指していると聞きつけたブラド卿は大慌ての旅支度です。彼をお見送りしつつ、初めて課せられたお留守番という大役に胸を膨らませるアリアでした。
 ふしだらになれない<淫魔>イルザリア、女好きの<首なし騎士>フォン・シュバルツェン、ペンギンみたいな<魔除けの石像>セルルマーニ、一流庭師の<生きた屍>フンデルボッチ、どこか普通とずれている同僚たちと一緒にアリアは楽しく掃除洗濯に励みます。誰かが騒動を起こす、大騒ぎの毎日でいつしかルイラムの件もどうでもよくなったころ。
「ルイラムを殺るんだよ、イーッヒヒヒヒ」
 ブラド卿の盟友、魔女のトファニアがやる気満々でオルレーユ城にやってきたのです。徹底的に容赦ないトファニアとルイラムがぶつかれば、オルレーユ城の荒廃は目も当てられないことに、と思ったアリアは事態を回避すべく奮闘するのですが、運命の日はやってきて──。



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